ボルハチとカードと私

 「霧人は4月17日〜20日までカードの裏の色を知らなかった」というムジュンから「4-1で成歩堂は捏造をやっていない(霧人は店内でカードを紛失していた)」ことを前提とした上での妄想(《♠Aの行方》参照)。


 17日深夜。
 ザックを撲殺した後家に帰りシャワーを浴び心地よい倦怠感の中さて証拠品のカードを処分しようとスーツのポケットを探った先生は、さぞ動揺したことでしょう。

 そこに入っているはずのカードがない!

 一体何処に落したのか。隠し扉を閉めた時かピアノ下にボトルを置いた時か成歩堂から電話が掛かってきた時か家の鍵を出した時か。玄関に戻って周囲を満遍なく調べてみてもカードは見付からず、ボルハチ店内で落した可能性の高さに絶望したことと思います。
 今から店に行くべきか?しかしもう警察が到着しているはず。「成歩堂に電話で弁護を依頼されたのですよ」と言えば入れるだろうが「法曹界一クールな弁護士」で知られるこの私がこんな深夜にわざわざ出向いたら不自然に思われないだろうか?そもそも既に警察によってカードが拾われていたとしたら無駄足に──とぐるぐる考えているうちに夜が明けて、とりあえず成歩堂と正式に弁護士契約を結ぶ為に面会時間を待って留置場へ。

 一刻も早くボルハチに…と焦っているところを呑気そうな成歩堂に「おはよう牙琉。寝不足かい?クマが出来てるよ」と茶化されて、(貴様のせいだろ!)とイラっと悪魔が浮かびそうになるのをグっと堪えつつ「ええ、この件を引き受ける為にあれから事務所で書類を片付けていたんですよ。とんだ残業です」とエレガントに微笑んでみせる大人の余裕。成歩堂は内心ニヤニヤ。7年間付き合った男です。あんな「落とし物」をしたら気になって夜も眠れないだろうことは容易く想像付きました。
 成歩堂がのんびり語る昨晩の状況(当然よく知っている)や笑えない冗談をイライラと適当に聞き流し、そんなこんなでようやくボルハチへ。何度か顔を合わせたことがある担当刑事は、清潔感のないコートと「〜ッス」という下品な語尾が不愉快で名前も覚えたくありません。
 とりあえず押収された証拠品の中にあのカードが含まれていないことを聞き出して一安心。店内を調べるフリをしつつ、自分が地下から出口まで辿った経路をさりげなく探ります。落した時に蹴り飛ばして棚等の下に入り込んだ可能性も考えなくはないのですが、「法曹界一クール(以下略)」が床に膝を付くようなことなどあってはならないのです。そもそもそんなところに入り込んだのならば無能な警察が見付けるということはないでしょう。どうやら見える範囲にはないようです。
 では隠し扉〜店内に出る通路の中に落したか。確認したいのですが、警察は隠し扉の存在そのものに気付いていません。これだから無能な(以下略)。しかしそこに落していたのならばかえって安全です。無能な(以下略)は決してそれを見付けられないでしょう。
 まぁ、別のところに落ちていて見付かったところで、隠し扉さえ分からなければ「第3者がそこにいたかもしれない」可能性にしかならないのだからそれ程怯える必要はなかったのです。成歩堂は当然隠し扉を知っていますが、法廷でそれに触れられそうになったら適当にはぐらかして黙らせてしまえばいいのです。
 現場をねちっこく調べるというのも「法曹界一(以下略)」に相応しくありません。事件が起こったあの数分の間に私は完璧に見るべきものを見、成すべきことを成し遂げたのだから今更必要ないでしょう。

 そして牙琉 霧人は下品な刑事から受け取ったモノクロの現場写真を手に、明晰な頭脳を鈍らせる睡眠不足を解消すべく、常人が考えるものとは3ケタ程値段が異なるベッドに横になる為帰途に着きました。
 その頃そうした霧人を熟知している成歩堂は、面会に来たみぬき(切札のカードを持っている)と一緒にニヤニヤしていました。

 そして3日後。
 法廷で霧人の「青い炎」発言を聞いた成歩堂は、被告人席で一層ニヤニヤしていたそうです。


 ──て、そういう流れでもない限り「カードが青」と勘違いしっぱなしな先生はおかしいって。

 探偵パートで現場を調べることすらしていなかったのか先生!
 重ね重ね「先生がカードの裏の色を知らなかった」って、どう考えても不自然だよね…。

 とりあえず「成歩堂は捏造したのかしていないのか」は『逆転裁判』という作品の世界観を大きく変えてしまう設定なので、いずれ公式ではっきりさせてもらいたいなぁと切に希望。「捏造した成歩堂なんて最悪だ」的な意見を見ると胸が痛みます(自分が「捏造してないと思うよ派」だからだけど)。



2007年7月4日・【手記】掲載

 

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