Kleinsche Flasche・3

2019年 2月7日(木) [21:48] 吾童山 山道




倉院の里にも雪はふりますが、こんなに深くはつもりません。
ころんだ時に長ぐつの中にも雪が入ってしまい、足の指が冷たくてちぎれそうに痛みます。
葉桜院の灯もずいぶん小さくなってしまって、人気のない暗い道に静かに静かに雪がふります。
時々どさりと木につもった雪が落ちて、びっくりしてカレーのおナベを落としそうになりました。
最初はあたたかかったおナベもすっかり冷え切ってしまい、もっと重くなったような気がします。
奥の院に向かっているはずなのになかなか着けなくて、わたくし、泣いてしまいそうです。


何度かころんだせいで、おナベにも雪が入ってしまいました。
寒くて重くて、もうおナベを置いて帰ろうかと思いましたが、真宵さまはたいへんな修行にのぞまれているのですから、わたくしもへこたれるわけにはゆかないのです。
それに、これはおかあさまの《大事なお願い》ですからやりとげなければなりません。
これはきっと、真宵さまのためになることなのですから。




真宵さまのことを考えるとちょっと元気が出てきて、わたくしは重くなった足をがんばって前へうごかします。
わたくしは心の中でつぶやきます。


真宵さま。

真宵さま。


わたくしがおかあさまの《お願い》をはたしたら、真宵さまはきっと笑ってくれる。「がんばったね、はみちゃん」と笑って、きっとわたくしをほめてくれる。
心があたたかくなるような真宵さまの笑顔が、わたくしは大好き。


真宵さま。

真宵さま。

大好きな真宵さま。









ザク…ザク…と雪をふむ音とハッ…ハッ…とはく息の間に、ドドド…と川の流れる音が低く聞こえたような気がしました。

もうすぐ奥の院──ホっとしたその時、わたくしの耳に10時の《消灯の鐘》の音がとどいたのです。
 
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